九州・中国管内で出力抑制が急増し、太陽光発電投資を行っている事業者に「不安と動揺」が広がっています。
これまで九州エリアがメインで、その他のエリアではあまり見られなかった出力抑制ですが、2022年以降に制度が改正され、全国の10kW以上のすべての太陽光発電が出力抑制の対象となってしまいました。
これは九州・中国管内以外に太陽光発電を持っている人には、「約束が違う」と激震が走る出来事であり、関東エリアに太陽光発電を所有する筆者としても「えっ!ほんとに!!」と気が気でありませんでした。
多くの普及が進み、過渡期となり様変わりはててしてしまった太陽光発電の投資環境について、今後の見通しをまとめていきます。
- 1.出力抑制はなぜおこなわれるのか
- 2.出力抑制の現状
- 3.中古市場への影響
- 4.今後の見通し
- 5.出力抑制が起こる時期と抑制ルール
- 6.「【太陽光発電投資は失敗!?】国の動向と出力抑制状況を注視」まとめ
1.出力抑制はなぜおこなわれるのか
日本の電力は、もともと火力や原子力の主要発電所でまかなえていたものの、再生可能エネルギーの普及を目的としたFIT制度が2012年に定められたことで、太陽光発電所が続々と増え、主要電力の発電量にプラスして、再生可能エネルギーで電力が作られる状況となりました。
そして、国の政策により再生可能エネルギーの普及が進んだことで、時期・シーズンによっては、一般家庭や企業などの電気使用量を上回る電気が、主要電源以外から発電されるようになってしまったのです。
電力が余った時にどうするか?
その場合は、太陽光・風力によって発電した電気の出力が需要を上回った際に、国の審議会が定めた「優先給電ルール」に従って、各電源の出力を抑制されることになっているのです。
出力抑制のルールは、
まずは、九州エリア内の火力発電所の出力を最大限抑制が開始され、同時に、揚水発電所のくみ上げによって需要も作り出す努力を開始し、蓄電池への充電も行います。
それでも余剰が出てしまった場合に、九州と本州を結ぶ関門連系線を利用して、他エリアに送電を開始することになります。
その次に、バイオマスが抑制され、5段階目に入って、太陽光発電や風力の発電の抑制が開始されます。
出力が停止もしくは抑制されると、発電した電気を電力会社に売電することができなくなるため、融資で事業おこなっている者にとっては、死活問題です。
投資家の問題もそうですが、せっかく発電した電気が無駄になってしまうのは国として損失でしかなく、脱炭素にも逆行するという課題でもあるのです。
2.出力抑制の現状
太陽光発電は、特に日照条件が良い九州で多くの普及が進んできました。
そのため、九州エリアにおいて、いち早く需要を上回る電力が供給される状況がつくられしまい、出力抑制の影響を受けるようになりました。
2023年に入ってからは、その状況の悪化が急激に進み、九州、中国、四国エリア管内などで、再生可能エネルギー発電設備に対する出力抑制が増加し、発電事業者に困惑が広がってきています。
九州エリアでは、2022年度に4億3800万kWh(出力制御率・出力抑制率3.1%)でしたが、2023年4月単月で3億7100万kWh(同26.2%)の抑制となり、前年度分に匹敵する量が4月だけで抑制されてしまったのです。
中国エリアにおいても抑制が進み、2022年度の抑制量は3900万kWh(同0.47%)に過ぎませんでしたが、2023年4月単月だけで1億4200万kWh(同17.1%)に急増してしまい、前年度1年分の3.6倍に相当する量が抑制されました。
エネルギー協会の集計では、2023年度通年の抑制率としては、九州エリアが13.0%、中国エリアが16.4%に跳ね上がり、通年で10%を超える可能性が高いとしているのです。
九州・中国エリアの出力制御急増を受けて、太陽光発電事業者の間に不安と動揺が広がるのは当然のことで、融資返済額を売電額が下回り続けることで倒産しまう恐れがあるのです。
3.中古市場への影響
2023年に入っての出力抑制の急増は、太陽光発電の中古市場にも影響が出始めています。
関連記事:【 まだ持ってるの!? 】2023年に入って太陽光発電の売却が2倍に増えている理由
太陽光の売却件数は、2022年は緩やかな増加傾向でしたが、2023年に入って急激に増加し、地域における発電所の売却額にも影響が出てきているのです。
今後の動向は、国の発電事業者向けに行う対策に左右されることになりそうです。
4.今後の見通し
九州エリアと中国エリアの出力制御急増に関しては、国においても議論がされていて、出力制御自体はさけられないものの、出力制御率の規模が、世界基準で見たときに適正な水準なのかどうか問題となっています。
通年で出力制御率10%超えとなると、抑制量が国際的に突出してしまっているのです。
国はまだまだ再生可能エネルギーの普及・導入を増やすことを目標に掲げており、開発意欲が削がることで導入が遅れる事も懸念しています。
導入を遅らせないためにも、出力抑制量を低減するための対策を必要としており、3つの対策が急ぎ進められています。
- 新設した火力発電の最低出力を従来の「50%以下」から「30%以下」に引き下げ
- 既設の火力には、ガイドライン改定の遡及適用はないが、基本的に新設火力と同様の基準の順守
- 広域的な出力制御の運用を導入し、あるエリアで供給が需要を上回ると見込まれる場合は、他エリアでも、火力発電の出力を引き下げ
追加の検討項目として、水力発電による調整機能の高度化、蓄電池や電源制御装置を活用した連系線の運用容量の拡大、出力制御時間帯における蓄電池や電気自動車(EV)の充電促進なども掲げられています。
今後の検討事項として、火力最低出力を30%からさらに下げること、原子力発電も柔軟性向上の対象に、既存FIT電源への蓄電池併設、卸電力市場における負(マイナス)価格の早期導入なども検討事項となっています。
5.出力抑制が起こる時期と抑制ルール
出力の制御が起こなわれやすいのは、需要が減る春や秋です。
季節も良く、エアコンなどの稼働が減るため、供給が上回りやすくなるのです。
九州電力エリアでは、これまで電気使用量が少ない春や秋に起こっていた出力抑制ですが、夏や冬にも行われるようになってしまいました。
どのようにして出力抑制がされるのかルールを見ていきます。
出力制御は、上記の表のとおり3つのルールに沿って適用されます。
- 30日ルール(旧ルール)
- 360時間ルール(新ルール)
- 無制限無補償ルール
①30日ルール(旧ルール)
30日ルールが適用されるのは、2015年1月25日までに売電の手続きをしているシステム容量が500kWh以上の太陽光発電所です。
30日ルールは、出力制御されても売電収入が補償されない日数を、年間30日を上限として定めたルールです。
出力制御された日数が30日以上になった場合、31日目からの売電収入が補償されます。
②360時間ルール(新ルール)
2015年のFIT制度改正により、30日ルールが360時間ルールに変更となりました。
360時間ルールが適用されるのは、2015年1月26日以降に売電手続きをしている発電所となります。
このルールが適用される太陽光発電所は、出力制御されても360時間を上回るまでは売電収入が補償されません。
③無制限・無保証ルール(指定ルール)
指定ルールが30日ルールや360時間ルールと異なるのは、出力制御される日数や時間の上限がないことです。
そのため、出力制御された期間がどれだけ長くなっても売電収入は補償されません。
2022年4月以降に申し込みした発電所は、全ての電力会社の管轄において無制限・無保証ルール(指定ルール)が適用になります。
6.「【太陽光発電投資は失敗!?】国の動向と出力抑制状況を注視」まとめ
太陽光投資は売電収入を利益となるため、出力制御されて売電できなくなると、投資としてはリスクが大きいと考えます。
年間360時間出力制御の対象となると、最悪のピーク時間帯の抑制を想定すると、49.5kW×360時間の最大で17,820kWhの損失が見込まれます。
金額で換算すると、FIT単価18円であった場合、320,760(税抜き)円となり、かなりの減額が見込まれることとなります。
ただし、出力抑制に関して世界基準を大幅に上まっているので、
(1)新設した火力発電の最低出力を従来の「50%以下」から「30%以下」に引き下げ
(2)既設の火力には、ガイドライン改定の遡及適用はないが、基本的に新設火力と同様の基準の順守を求める
(3)広域的な出力制御の運用を導入し、あるエリアで供給が需要を上回ると見込まれる場合は、他エリアでも、火力発電の出力を引き下げる
といったことが進められているので、今が一番厳しい状況であり、今後は改善していくものと考えられます。
それだけでなく、追加的に検討も進められているので、中古価格も安定してくのではないでしょうか?
初期コストを抑え、最悪のリスク管理をして投資を行えば、出力抑制があっても、問題なく持続可能な投資を継続することができます。
太陽光発電投資をする際は、現状の最悪の想定(360時間の出力制御)を行いながら進めていきたいものです。